1日をアップデートする経営の糸口

内田 聡一郎

美容室LECO 代表

2003年より原宿のサロンでトップディレクターとしてサロンワークをはじめ、一般誌、業界誌、セミナー、ヘアショー、著名人のヘアメイク、商品開発など様々な分野で活躍。 2018年渋谷にLECOをオープン 2020年セカンドブランドQUQUをオープン 2021年渋谷にöbenをオープン 2022年渋谷にoddをオープン デザイナーとしては 2020年JAPAN HAIRDRESSER OF THE YEARを受賞。 さらには22年、23年、24年と PREPPYリアルトレンド大賞3連覇を達成。 代表として今後一層の活躍が期待されている。 著書 「自分の見つけ方」(2013年) 「内田流+αカット」(2017年) 「内田本」(2018年) 「ウチダテク一刀入魂」(2022年) を発売。 また、シザーやシザーケースなどのオリジナルプロダクトも発売中。

話題の経営者に聞く!令和の店舗経営の秘訣

2024.11.11 配信


 店舗経営の秘訣は何か。という問いに対して結論から言うと、「小賢しい表面的なテクと勝負するフィールドの見極め」これに尽きると思っている。

 美容師は技術を磨くこと、ホスピタリティーを上げることでお客様の満足度を満たし、リピートしてもらい、指名を積み重ねていくビジネスモデルであり、大前提として、一個人のクオリティーを上げていく個人戦に近い仕事である。

 しかし、昨今の美容業界は大戦国時代。特に東京エリアにおいては同じビルの中に3、4軒の美容室がひしめき、コンビニの数よりも圧倒的に美容室の数が多い現状。情報のインフラも整備され、一昔前ほど技術や接客レベルに差がなくなってきている時代。そこそこ上手いカットやカラーができる美容師はその辺にゴロゴロいる。

 そもそもお客様にとって「上手い」の定義は非常に曖昧であり、単純にカットが綺麗に切れるが正義でもなく、お客様のイメージを汲み取りどんな雰囲気を纏いたいのか。そこに何が必要なのか。を的確に提案し、時には一緒に悩み、ある意味メンター的な役割を担うことで「あ、またこの人にやってもらいたい。この店に通おう。」が頂けるのである。我ながら本当に奥が深く難しい仕事だなと思う。

 そんな美容領域において独立出店し今年で7年目を迎える弊社だが、前述したように店舗経営の秘訣は何かと問われた時に、以下2つは即答レベルで実感している。

①小賢しい表面的なテク ②勝負するフィールドの見極め

一つずつ掘り下げていこう。

①小賢しい表面的なテク

 オープン当初の僕はやる気に満ち溢れ、マインドセットはまるで偉人列伝に出てくる自己啓発本のタイトルのような人間だった。自らもより高みを目指し、スタッフにもそのムードを共有することでより良い店づくりができると信じて疑わなかった。僕がやってきた経験をスライドさせることで皆が良い美容師になる。それが店の繁栄に繋がると思っていた。

 しかし現実は全くそうではなかった。僕のマインドや大事にしている技術は必ずしも全員に当てはまるものでもなく、同じことをやっても誰がやるかで結果が異なり、個人のキャラクターや時代性に非常に影響する。

 だからこそ、美容室を経営する時にある一定の店舗数が増えた時にぶつかる壁が属人的から仕組み化に。と言うことである。仕組み化とは誰がやっても同じ結果を生みだせるということで、1:1で技術や接客を基本とする属人度100%の仕事においてなかなか難しいことではあるが、やはり生き残る美容室は仕組みを作っている。その中でも僕が辿り着いたのは特に小賢しく表面的なマニュアルやテクニックを舐めてはいけないということだ。

 当時の僕は「マニュアル」が嫌いだった。マニュアルは人間性を殺す。アレンジの効かない不親切な人を作る。もっと一人一人が意識を高めて「らしさ」を追求していけば店舗は成長すると思っていたが、実際には一定のレベルを保つためにマニュアルは必須なのだ。

 例えば、日々の営業において「元気よく声を出してお客様を迎え入れよう」という社内で大事にしたい心得があった時に、人によって体現できる精度に差が出てくる。で、ここ最近は必ず朝礼でラジオ体操をする。そうすることで、自然と声がでて空気が弾み、朝イチの声が明るくなった。昔の僕はラジオ体操なんてかったるくて絶対にやらなかったが、やり始めてから、事実、今のほうが数段朝の雰囲気が良い。

 さらに、集客ツールであるインスタグラムや某サイトにおいてもSEOやアルゴリズムの変化、トレンドを見極めて、「動画にこう言う文言を入れたほうがいい」とか「今は後ろ姿より正面の何気ないヘアの雰囲気を見せる方がエンゲージが上がる」「1日3投稿をマストで上げて、この時間帯にアップするとPV数が稼げる」など正直素敵な髪型を作った後の僕にとっては小賢しいと思う手前のテクニックでかなり結果は変わる。

 いくら練習を重ねても、モチベーションの上がる話を聞いても、表面的なテクをあなどると数字は上がらない。小賢しいを表面的なことを日々積み重ねてこそ確実に結果が生み出せるのである。

②勝負するフィールドの見極め

 令和時代、消費者側も賢くなり、どの分野でもよりマニアックでプロフェッショナルなクオリティーを求める時代になった。

 余談だが僕はガジェットが好きで、よくそれにまつわるYouTubeや価格.comのレビューを観る。その中でも僕は携帯充電器をより良いものにしたいという欲が強く、最近はCIOというメーカーの充電器を愛用していて、店から自宅までほぼCIOの充電器で揃えている。このメーカーは今のところ主力の商品は充電器1択。その分充電器のデザイン性、携帯性、機能性においては僕は随一だと思っている。つい最近買った充電器の商品説明を見ると「接続された端末に合わせて電力を自動で調整する独自の技術NovaIntelligence を搭載」と書いてあるが正直何がどう良いのかは分からない。が、ページの作り込みやブランディング、商品説明で他社よりもマニアックさが伝わるし、専門性の高さを感じる。よってCIOの最新のガジェットが出るたびに僕は胸躍り、Amazonでポチってしまうのである。

 CIOと同様に弊社にも強みがある。それはやはり他社にはないデザイン性と専門性である。主な広告媒体であるインスタグラムでも僕らの作るヘアスタイルは専門性に特化し、「刺さる人には刺さる」ヘアデザインを打ち出すことにより「わざわざそこまで行く」理由を作り出している。

 今美容師業界では特化型美容師というキーワードで、1つの技術に特化した美容室が爆発的に売れている。もちろんフェーズによって裾野は広げていく必要性も出てくるが、初期段階においては、まずどこで勝負するかを見極め、全ベットすることで注目度は格段にアップする。

 【米と焼きたてのハンバーグのみを提供する料理店】、【白いTシャツしか売らないアパレルショップ】、【1日1回決められた時間内にしか写真を撮れないSNSサービス】これら全て、専門性を高め明確なコンセプトのもとにあえてターゲットを絞って展開している。そこに人は熱狂する。まずはフィールドを見極め、徹底的に深掘りし、見せ方を工夫する。

 以上、上記2つを主に書いたが、ものすごいスピードで状況が変わる現代においてもはや店舗経営の秘訣などなく圧倒的トライ&エラーを繰り返すしかない。生き残るためにはバイタリティーモンスターになるしかないのだ。僕も頑張っていこうと思う。

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