業界リスクニュース

「法律を知らない」はリスクである。4月に改正された労働基準法の注意すべきポイントを押さえよう

リスクポイント

●2023年4月に改正労働基準法が施行し、月60時間を超える時間外の割増賃金率(25%→50%への引き上げ)が中小企業にも適用される
●企業が認識していなくても、時間外労働分としてカウントされるケースもあるため、カウント間違いによる未払い発生リスクがあり(勤務時間が固定(8時間以上)となっているケースや休日労働分など)

■はじめに

 今年2023年の4月、改正労働基準法の施行により、時間外労働月60時間超の割増賃金率が引き上げられました(大企業はすでに実施済み)。これは、労働者の過重労働を防ぐための取り組みとして施行されたもので、中小企業、特に人手不足が深刻化している飲食業や理美容業などにとって大きな影響を及ぼす可能性があります。正しい内容を知っていないと、残業代未払いなどのリスクにつながります。

 本稿では、法改正の内容をお伝えするとともに、対応策のポイントについてお伝えします。

■1.改正労働基準法の概要:時間外労働月60時間超の割増賃金率の引き上げ

 新たに導入されたルールは、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合、その超過分についての割増賃金率をこれまでの25%から50%へと引き上げるというものです。この時間外労働60時間とは、法定の時間外労働を指します。具体的には、1日8時間あるいは週40時間(一部の小規模事業者は週44時間)を超えて労働させた場合、超過した時間を指します。

 例えば、短時間勤務のパートスタッフが行う、1日8時間未満の残業は、対象となりません。また、休日労働については、週1回の法定休日の労働は含まれないものの、法定休日以外の休日出勤は時間外労働に含まれます。

■2.改正労働基準法が中小企業、特に飲食業や理美容業に与える影響

 割増賃金率の引き上げは、特に営業時間が長く、定休日も少ない飲食業や理美容業において大きな影響を及ぼします。人手不足から時間外労働が増加傾向にあり、その結果として人件費が増加する可能性があります。

 注意が必要なのは、企業が認識していない時間が実は時間外労働であるという場合も存在するという点です。例えば、12時間勤務(休憩時間2時間含む)の飲食店スタッフの場合、実際に働いている時間は10時間となりますが、法的には2時間の時間外労働が毎日発生していることになります。また、休日が週1日しかない場合、6日目の勤務は全て時間外労働となります(変形労働時間制を採用している場合など時間外労働にならない場合もあり)。これらの時間数を含めて月60時間をカウントする必要があります。

■3.労働基準法改正に対応するための実践的なアドバイス

 上記のようなリスクに対処するためには、労働時間の管理が欠かせません。具体的には、管理者が各従業員の今月の時間外労働が何時間になっているかを、リアルタイムに把握し、60時間を超えないように業務調整などのコントロールをすることが重要です。月が終わってから、60時間を超えていたのが分かったのでは手遅れです。そのために、勤怠管理システムの導入も有効でしょう。

 また、シフト制度の改善やパートスタッフの活用も有効です。例えば早番、遅番の設定や繁閑に応じた変形労働時間制の導入などが考えられます。一方、パートスタッフに一部業務を担当させることで、正社員の時間外労働を削減することも可能です。正社員の業務すべてをパートスタッフに置き換えることは難しいですが、業務を棚卸しし、一部でも移管できないかを検討してみましょう。

 

 今回の労働基準法の改正は、長時間労働になりがちな飲食業界や理美容業などの経営者にとって厳しい制約に思えますが、これをきっかけに労働環境を見直し、より良い職場作りを進めてはいかがでしょうか。労働環境の改善は、従業員の満足度向上につながり、結果的に企業の競争力を高めることになります。

高木 厚博

社労士事務所CRAFT 代表
採用定着士/特定社会保険労務士 

1974年大阪生まれ。関西大学法学部卒業。大手外食企業にて、店舗管理等を経験(調理師免許取得)。退職後バイトをしながら試験勉強をし、社会保険労務士試験合格。社労士事務所に15年間勤務し、2019年11月独立開業。顧問先企業様の人事・労務の課題解決に取り組む一方、人事コンサルタントとして賃金制度・評価制度・退職金制度などのコンサルティングを多数手掛ける。採用定着士として、企業の採用活動支援やパワハラ予防研修なども行う。金融機関、商工会議所主催セミナーなど講演実績多数。著書「うちはいい会社です!と社員から言われる就業規則25のチェックポイント」(共著、泉文堂)。NHK総合テレビ「おはよう日本」『103万の壁 企業の足かせ』出演。